一般社団法人未来友は東京都葛飾区に所在し、民間のシンクタンクとして、労働と国際関係についての情報発信、研究や政策提言を行っています。また、特に見識が厚い方々に専門研究員として業務を委託し、日常的な研究・発信と、セミナーやメディア発信・コンサルティングを行っています。

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アフターコロナの技能実習生の採用・面接、入国前講習などのオンライン化。 送出機関との連携について  主幹研究員 永井知子の提言

一般社団法人「未来友」(東京都葛飾区、代表:荻野一美)、および当社の主幹研究員であり国際労務アドバイザーである永井知子は、新型コロナウィルス感染症の収束後、海外の送出機関における採用面接や入国前講習のオンライン化促進について、利点や課題をまとめ、関係各社に向けて提言した。

新型コロナウィルス禍のもと、世界各国でテレワークが普及した。テレワークのシステムは、仕事だけでなく語学学習などにも適している。既にWeb会議機能を利用したオンラインの就職説明会なども広まっている。
これらのインフラ活用を、技能実習生の採用面接や入国前講習についても転用したい考え。

 

  1. 募集・採用・面接の今後について

既にSNSを使って日本の監理団体や企業が採用面接を実施しているケースはあるが、技能実習機構が現地面接を推奨していることも有り、まだ一般的とはいえないのが現状だ。

背景にある課題として、一部の海外の送出機関および人材募集者は、技能実習生候補者に、日本からの求人募集内容を十分に伝えていないことがある。実例として、建設業で「とび」の募集をし、採用面接に集まった候補者に再度、業務内容を伝えたところ、「話が違う、聞いていなかった。参加を辞める」と半数がキャンセルした事例がある。

こういったトラブルを防ぐために、本来は、監理団体の職員、企業の上司、同国出身の技能実習生等の関係者全員が現地に出向き、直接業務の説明や面接を行うことが理想的であるが、コロナ禍が続いたことをきっかけに、これまでの採用面接の在り方が見直される動きもありそうだ。

海外の送出機関が「誘い文句」で実習生を募集することは以前から度々問題となっているが、オンラインツールなどを用いて、日本の監理団体が十分に制度の説明をすれば、本来の主旨を伝えることは十分可能となる。

また、募集や採用面接の段階では、企業の社長や上司が直接説明することにより、業務内容をより正確に伝えられる。実習生からの信頼が高まる効果も期待できるだろう。既に企業に同国人の技能実習生がいる場合は、オンライン面接で母国語を使えるため、より安心感が出るだろう。

結論として、日本の監理団体および企業がオンラインで積極的に介入することで、採用時のミスマッチやキャンセル、トラブル等を減らせる可能性がある。

コロナ収束後も、海外渡航費やスケジュールの捻出の難しさは残るため、今後はオンラインによる募集、採用面接を精力的に進めていく必要があるだろう。

 

  1. 入国前講習の今後について

次は、技能実習生の採用決定後に現地で数カ月実施する入国前講習について、オンライン化を促したい。

まずは大前提として、技能実習生の入国前講習は、「対面の講義で行う」と制度で決められており、必要な時間も決められている。また集団生活や生活マナー等の訓練も必要なため、現状の制度ではオンライン教育は補助的な利用に限定される。

 

①   実習生の自宅からのオンライン学習

各技能実習生の自宅から、オンラインで講義を受ける場合の、第一の課題は、経済的な事情等で自宅にPCやWifiなどの通信環境がない実習生が多いことである。 スマートフォンは皆持っているが、長時間の学習には向かない。

仮にPCなどが自宅に揃っていたとしても、実習生は家業の手伝いを優先することも多く、全員同じタイミングでオンライン講義に参加するのは難しい事情がある。

教材等を電子データ化したE-ラーニングであれば実施可能かもしれない。企業固有の業務の専門用語や材料・器具等の学習は、自宅で実施する事が実質的に可能と言えるだろう。

 

②   講習施設を利用してのオンライン学習の効果

海外の送出機関の講習センターでは、対面授業をもってしても十分なスキルを有しておらず、専門的な日本語教育を経た教師も少ないのが現状である。

解決の方向性として、日本語教育センターなどの講習施設に技能実習生が通学し、施設のPC設備を利用してオンライン学習が促進できれば、ネイティブの日本語教師から受講できるため、質の高い日本語学習ができるだろう。

日本人教師の発音する日本語を聴くことは、入国後の実習生のコミュニケーション能力向上に非常に効果があるので是非広まってほしい。

また、監理団体から、日本の法律、ルールやマナー、技能実習制度の主旨や労働条件等について、詳しく説明することも可能だ。監理団体を通じて、企業の同僚や上司とコミュニケーションを取ることもできる。配属前に監理団体や企業と十分にコミュニケーションを取ることで、実習生のモチベーションもアップし、配属後のスムーズな技能実習開始にもつながるだろう。

 課題として、現地の講習施設でのPC設備や機材等の初期投資が必要になる。また、オンライン学習に頼りすぎてしまい対面の会話の経験が少ないと、間の取り方、空気の読み方、相手の反応などがつかみづらく、実際のコミュニケーションで苦労することも多いだろう。

講師からは技能実習生の受講態度などが把握しにくいこともあり、オンライン学習は補助的な利用が望ましいといえるだろう。

 

  1. オンライン化促進に向けて

オンラインによる募集・採用面接や入国前講習について、日本から関与することについては、送出機関によっては面倒に思うところもあるかもしれない。また採用面接や講習の費用分担や支払い方法など、運営上の課題も出てくる。

しかし、これら日本からの前向きな提案に協力する送出機関と付き合っていく事が、実習生の為にも、受け入れる企業の為にもなることを理解する必要がある。

現地の採用面接は、送出機関の通訳を利用するケースも多いが、通訳能力にバラツキがあり正しく通訳できない場合も多く、都合の悪い事を意図的に通訳していないこともあったりする。可能であれば日本の監理団体が介入し、別途通訳を用意することが望ましい。

以上のように、制度上の制限やインフラの導入課題はあるが、より効果的な採用や優秀な技能実習生の育成、企業の発展を目指す目的から、オンライン化は今後ますます求められると予想している。 

「未来友」では、監理団体および企業と連携し、送出機関に向けてのオンラインツールの導入および運用を推奨していく。